旧・無印吉澤

昔はてなダイアリーに書いていた記事のアーカイブです

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140807431/

複雑系に関する本2冊目。うーん。消化スピードが遅いから買った本が溜まっていく一方……。

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本書のメインテーマは、ノード間がランダムにリンクされるランダム・ネットワークに従わない現実の事象を説明するために導入された、ノード間のリンクが

  1. ネットワークのノード数が徐々に増えていく「成長」
  2. 新しく追加されたノードがリンク先を選択する際に、既に獲得したリンクの多いノードを優先的に選ぶ「優先的選択」

という2つの法則によって決定される「スケールフリー・ネットワーク」です。前半ではスケールフリー・ネットワークに至る過去の研究、

といった話題を数珠繋ぎのように語り、そして、インターネットの調査をしているうちにスケールフリー・ネットワークの発送に至る著者自身の体験が語られます。そして、後半ではそのスケールフリー・ネットワークの思考を他分野の問題(ウィルスやアイディアの流行、WWW、生物学、経済学、テロリストのネットワーク)に次々と適用していく流れで、とにかく読みやすい。個人的には、P2P関係などで過去に読んだ面白い話が大量に盛り込まれていて&意外なところで関連付けられていて、かなり楽しく読めました。

まあ、あまりにもすらすら話が進んでいくのでちょっと「ホントにこんなうまくいくのか?」という気にならなくもないのですが、最後の章で著者自身が

(p.318)
本書のなかでわれわれが現実世界に迫った手法は、ある意味でクリストとジャンヌ=クロード*1の精神に沿うものといえる。細胞や社会のような複雑な系の背後にあるネットワークを見るために、われわれは細部を隠した。ノードとリンクのみを見ることによって、複雑さのアーキテクチャーを捉える特権を手に入れたのだ。そして細部から距離をとることにより、複雑な系の背後にある普遍的な組織原理を垣間見た。隠すということが、クモの巣のようなこの世界の進化を支配する基本法則を明らかにし、複雑に絡み合ったアーキテクチャーが、民主主義からガンの治療まであらゆるものに影響する様子を知るために役立ったのである。

われわれはここからどこに向かうのだろうか? 答えは簡単だ。覆いを取るのである。われわれの目標は、複雑性を理解することにある。そのためには構造とトポロジーの段階から踏み出し、リンクを伝わって起こるダイナミクスに焦点を合わせなければならない。(略)

と述べているように、あくまで「ネットワーク思考」という曖昧なものを飲み込むための本として捉えるのがいいのではないかと思います。そのためには、お話としても読める本書のスタイルは最適なのかも。この辺りの話題に詳しい人以外にはオススメします。

ただ、「創発」ほど考えさせる内容じゃないかな……あれは逆に相当読みにくいですけど。

*1:参考サイト:SIGLO『議事堂を梱包する』(http://www.cine.co.jp/works/gijido/explain/explain.html)